「コンテンツの引用は『盗用』ですか?」






まる一ヶ月の東京滞在もあっという間に終了。ボストンは晴天続きで、74日の独立記念日のお祝いで賑わっている。

今回の帰省旅行中には企業や研究機関などで海外広報セミナーの機会をいただいたが、まだ広報担当になって間もない方より興味深い質問をいただいた。「自分たちと似通った組織が発表した情報をニューズレターに取り込みたいが、その組織の了承をとるべきなのでしょうか?」という相談である。

話しているうちに典型的な日本と海外の文化のギャップが浮き彫りになってきた。情報の転載や情報源の扱い方などは日本人留学生が出くわす大きな問題のひとつである。また、大手出版社のプロの編集者ですら海外との慣習のギャップにトラブルに巻き込まれることが多々あるため、この機会にポイントを書き留めてみたいと思う。以下は受けた相談の内容に沿って作った架空の問題例と回答である。


【問題例】 組織Aは自分たちの遺伝子研究の成果をニューズレターを通して発信している。この分野に関するより多くの情報を盛り込みたいので、他の機関で行われている類似の研究についても掲載したいと考えている。組織Bは似通った研究の成果をウェブサイトに載せているが、組織Aはその記事をそのまま、或いは要約して自分たちのニューズレターに掲載できるだろうか?

【回答】 基本的に、紙媒体であってもオンラインであっても掲載物は著者、あるいは発行者の所有物である。内容だけでなく文の書き方などもその人ならではのもの。他人が勝手に借用するのは禁物である。

これは当たり前のように聞こえるかもしれないが、こういった問題で海外で「トラブる」日本人は後を絶たない。なぜなら、日本人は小学生の頃から多くの資料を読み、情報をまとめる「作文」に慣れているからだ。作文では、読んだ本の内容を誰もが自由に使ってよい事実のように扱ってしまう傾向にある。言い換えれば、何をどの本から引っ張ってきたのか逐一言及せずに、とにかくすべてを融合してきれいに纏めることが求められる。

20年ほど前に、とあるボストンの大学にゲストスピーカーとして招かれたことがあった。招いてくれたのは大勢の日本人学生と日々関わりあっている講師の方だった。私は当時地元のウィークリー紙で在学生インターンとして働いていた。講師の方は私を見てきっと、「彼女ならわかってくれる」と思ったのだろう。授業が終わった後、「日本人学生にライティングの課題を出すと、あちこちから引っ張ってきた情報をそれが誰の考えか明記せずにまとめて提出してきます。そういうことを明記するという常識がなぜないのでしょうか??日本の学校は一体何を教えているんでしょうか?」と愚痴をこぼされ、同時に詰問された。

もちろん、日本でも掲載物の無断転載がいけないというのは誰もが知っていることであり、上記は少数の人が無知なのだと思われる方もいるだろう。ただ一般論として、新聞社Aの記事を新聞社Bが無断で転載するのはいけないとわかっても、複数の本などから資料や著者の名前を明記せずに情報を抽出してまとめるのが問題であると気づかない人は意外と多いのだ。

問題例に戻ることにする。

組織Aのように、他組織Bが掲載した記事などを自分たちの出版物に取り込みたい場合には、下記をガイドラインとして進めることをお勧めする。
1) 本やオンラインに掲載されている情報は事実ではなく、あくまでも著者、発行者の「意見」であり、彼らの所有物である。
2) 企業や研究機関にとっては、掲載物は人件費をかけて作成した彼らの「商品」である。(例:それをサイトに載せることによってビジター数が増え、組織の名も広まる。)
3) 故に、外部組織が作成したコンテンツをそのまま転載するのは禁物である。

解決策はこちら。
1) コンテンツそのものではなく、それへのリンクを貼る。(リンクを貼ることは広く許容されている。サイトはビジターあってなんぼのものなので、リンクを貼ることはその組織への恩恵ともなる。)
2) いきなりコンテンツを借用するのではなく、「紹介」する。(例:「組織Bでは最近下記のような研究が行われ、興味深い結果が報告されている」といったような紹介文を書く。)
3) 上記の紹介文に続き、簡単にコンテンツを自分の言葉として紹介する。直接オリジナルの内容を引用したい場合には「  」に入れる。あるいは引用文とはっきりわかるようなボックスに入れて囲むなど、デザイン面で工夫するのも良い。
4) 引用文は短くする。全文を引用するのは禁物。先に述べたように、コンテンツはサイトにビジターを誘導するための道具でもある。時間をかけて作ったツールをそのままほかのサイトで使われては、作成した側としては問題を感じるのは当然である。
5) 紹介しているコンテンツはどこの組織の誰が述べた・書いたものであるか、必ず明記する。
6) 掲載された通りの表現をそのまま借用してもらって構わない、むしろその方が嬉しいという、普通とは異なった意図で書かれた発信情報もある。プレスリリースなどに多い。なので、あらかじめ情報源に連絡をすれば、上記のルールを無視して完全にコンテンツを借用できることもあり得る。
7) 深く掘り下げて紹介する場合には、相手方の了承を得ておいた方がよい場合
もあり得る。簡単な紹介、引用には必要ないが、連絡を取って関係を作っておくのは悪いことではない。

重要なのは自分の発言と他人の発言をしっかりわける、誰の発言か皆にわかるようにしておく、ということだ。


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